朝鮮通信使の精神

2013年08月09日 17:48

最近の韓日関係は悪化の一路である。日本の歴史教科書問題、竹島に対する領有権主張、閣僚の靖国神社参拝は、韓国民の目から見ると退行的民族主義と歴史歪曲の延長線上にあるものであろう。21世紀に北東アジアは中国の強力な浮上と米国の再均衡政策で大きな変化の渦に置かれている。韓日間の軍事情報交流協定は失敗に終わり、自由貿易協定は停滞状態だ。北朝鮮の相次ぐ核実験とミサイル発射などで韓半島の平和と安定は深刻に脅威を受けている。このような状況でジェームズ三木が書いた『つばめ(제비)』という小説が改めて思い起こされる。何年か前にミュージカルになり韓国でも公演されたこともあった。壬辰倭乱(文禄慶長の役)直後の1607年に朝鮮宣祖(ソンジョ:선조)が新たに政権を取った日本の徳川幕府に親善使節団を派遣したのが背景だ。朝鮮は刷還(쇄환)(捕虜の返還)を名分に使節を送り、日本に侵略戦争の反省と善隣を圧迫する知恵を発揮した。徳川幕府は正統性を誇示するために儒教思想の先進文物を備えた朝鮮使節団を受け入れる政治的必要があった。朝鮮は平和を望み日本は安定を望んだ。小説『つばめ』はこのような背景から始まる。当時堂上訳官(당상역관)として日本に派遣された儒学者の李慶植(イ・ギョンシク:이 경식)は戦争により全羅道霊光(チョンラド・ヨングァン:전라도 영광)近海で死んだと思っていた妻のつばめと彦根城で再会する。捕虜として捕らえられ日本の侍の水島善蔵の妻となり息子まで1人産んでいた。妻を返すよう求める李慶植と愛しているので別れられないという水島は、筆と刀がぶつかり合う自尊心を賭けた戦いを行った。2人の夫の間で悩んだつばめは結局この世に別れを告げてしまう。こうしたことも知らず2人は苦心の末に譲歩を決意する。李慶植は相手方が不道徳でも他人の家庭を破壊することを願わずそのまま帰国することにし、水島は妻を帰国させる代わりに2人を結び付けた上官の命令を断った罪で切腹することにしたのだ。作品は通信使の船が出航する大阪の港で2人が会い涙で和解しつばめの冥福を祈る場面で終わる。この小説のように400年余り前の先祖の知恵がなかったとすれば両国間の善隣はなされなかっただろう。朝鮮通信使が11回にわたり派遣され両国は230年余り文化的に疎通し政治的に信頼した。いま必要なことはまさに朝鮮通信使の精神だ。韓日関係はこれ以上悪化してはならない。自由民主主義と市場経済に基盤を置き米国と同盟を結んでいる両国は互いに対立し反目するのではなく疎通と信頼の知恵を発揮しなければならない。日本は歴史認識に対して韓国民の心情を理解しなければならず、韓国は文で武を返す徳を発揮しなければならない。そうでなければ両国間には元に戻すことはできない深い澱ができるかも知れない。悲しいつばめの悲劇を21世紀に繰り返してはならない。